絶滅の恐れがある野生生物の保護保全活動

日本列島には、約400種の汽水・淡水魚が生息していますが、環境省が作成したレッドリストでは、絶滅危惧種数が改訂の度に増加し、平成25年2月に公表した第4次レッドリストでは167種と、評価対象種に対する絶滅危惧種の割合が42%と分類群の中で最も高くなりました。

そのなかにはもともと少なく珍しかった淡水魚もいますが、メダカのような、かつてはどこででも見られた淡水魚も絶滅の恐れがある淡水魚として挙げられました。メダカは日本産の魚の中で地方名が最も多く、その数は5000を越えるといわれています。それだけどこにでもいる身近な淡水魚であったからです。

メダカの飼育は比較的簡単で、水槽飼育でも増やすことができます。薄赤色の突然変異個体はヒメダカとして、金魚などと同じように市販もされています。したがって、メダカが絶滅の恐れがあるといわれてもピンとこないかもしれません。ところが、野外に出かけて野生のメダカを探すとなると、なかなか見つけることができません。絶滅してしまったわけではないので、よく探せば見つかるかしれませんが、その数は以前に比べて激減しています。

これらの淡水魚は、河川のほか、水田、水路、ため池等、人間の活動により維持されている二次的自然を主な生息環境としていることから、人間活動の影響を受けやすく、戦後から現在に至る土地利用や人間活動の急激な変化等が、その生息環境を劣化・減少させた要因だと考えられます。

淡水魚の生息環境は、昭和30年代の高度経済成長期を境に、大きく変化しました。その淡水魚の減少の原因として考えられているのが、水質の悪化・人工構造物による生息地の改変・外来魚の侵入・業者による乱獲などです。

近年では、環境に対する関心が高まり、各地で自然保護や環境保全に関する活動の気運が高まりました。増殖個体の放流などもその例です。

新聞やメディアでほほえましいニュースとして取り上げられるコイやメダカ、金魚などの放流事業は、重大な問題をはらんでいます。

分子生物学の発展によって、淡水魚は陸上や海を移動することができないので、同一種であっても水域ごとに遺伝的分化が進んでいることが分かってきました。メダカを例にとると、北日本集団と南日本集団に大別され、後者はさらに9つの地域集団に細分されています。もし、ある地域のメダカの自生地に、その地域とはまったく異なる遺伝子を持つメダカを放流するとどうなるでしょう。遺伝的分化が進んでいても、生殖的に隔離されるほどではないので、自由に交配し、その地域の独自性は失われてしまいます。これが遺伝子汚染と呼ばれる現象です。

このように、純淡水魚は地域ごとに異なる遺伝的特徴をもつため同種の異なる地域集団の導入が行われると、容易に交雑して地域固有の特性が失われてしまいます。

遺伝子汚染が恐いのは、それ自体が目に見えないこと、そして一度汚染されたものを元に戻すことはまず不可能であることです。他の水域からの増殖個体を安易に放流することは、遺伝子汚染を引き起こす原因となります。

放流事業においては、放流地の生息環境をよく調べて、その淡水魚が生息できる状態に環境を復元する必要があります。魚たちがいない所には理由があって、その理由を解決しない限り放流は無駄になります。何年にもわたって放流し続ける行為が美談として紹介されるケースが散見されますが、科学的な裏付けもなく放流しているのであれば、それは魚たちの大量虐殺に他なりません。

生物多様性の保全の観点から、放流魚以外の生き物への影響も十分に配慮する必要があります。

詳しくは、日本魚類学会自然保護委員会から生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドラインがリリースされています。

日本魚類学会自然保護委員会 http://www.fish-isj.jp/iin/nature/index.html