香川のニッポンバラタナゴの危機的状況
香川のニッポンバラタナゴについては、香川県、特定非営利活動法人みんなでつくる自然史博物館・香川、かがわタナゴ倶楽部が適切に個体群維持をしていると思い込み、本会ではオオクチバスが隣に生息する、とあるため池(*)の個体群のみ危険を感じて約25年間保全管理してきた。かがわタナゴ倶楽部は県の外郭団体みたいな立ち位置で、本会は完全民間団体みたいな立ち位置、県が関係する事業はほぼ100%本会には声がかからない。
約20年前かがわタナゴ倶楽部に、NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会の加納博士を紹介し、「ともに情報交換しながら保全活動を進めませんか?」と小生が言ったところ、「僕たちは香川(タナゴ倶楽部)の人間だけでぼちぼちやっていきますから」と、かがわタナゴ倶楽部の会員が言い放った衝撃を今でも覚えている。
例えば、「希少淡水魚ニッポンバラタナゴ保護の取組み -タイリクバラタナゴ混入個体群の池干しと捕獲による防除の試み-」(白井ら 2009)にあるように、本会には100%声がかからない。保護の取り組みには敬意を表するが、この取り組みは失敗し、おそらく近隣天然分布池への交雑バラタナゴの供給池元となっている。防除を試みたため池から数百メートルしか離れていない、とあるため池(*)個体群もオオクチバスでなく交雑バラタナゴ密放流にやられてしまった。日常的な啓蒙活動や情報共有の不足、そして地域住民にも隠して保護、希少種保護は池主への放り投げ任せなどの信頼関係の構築不足だろう。そもそも防除を試みるなら最後までやり遂げてほしい。また、ため池にヤリタナゴはいませんよ?いたならその取扱いも重要視されるべきでは?と考えてしまう。
2024年度はカワバタモロコの保全に関する研究が進み、それなりの知見も得られた。その成果は今後論文として広く世に共有するつもりだ。今は、ヒレカット(本会は魚をミンチにしません)によるDNAシーケンシングによる塩基配列解読に取り組み、記録のない野放図な放流で謎と化していた個体群の由来を解析中だ。
他の魚種の由来も明らかにすることが当分の間の使命だと考えている。そこでふと、ニッポンバラタナゴとカワバタモロコの状況を過去文献などから整理すると、以下のようだった。
カワバタモロコ | 2004RDB | 2021RDB | 2025/01 | |
総生息地数 | 3 | 12 | 12 | |
天然分布池 | 3 | 6 | 7 | |
移殖池 | 6 | 5 | ||
ニッポン バラタナゴ |
2001/12 | 2004RDB | 2021RDB | 2025/01 |
総生息地数 | 55 | 28 | 14 | 10 |
天然分布池 | 35 | 15 | 4 | |
移殖池 | 20 | 13 | 7 |
ニッポンバラタナゴがきわめて危機的な状況であることが分かる。本会の保全池は、2023年の渇水で水位が異常低下し、その後ニッポンバラタナゴの個体数が1/100程度まで激減している。2024年には20年ぶりに近隣水系のため池からドブ貝25個体を移殖した。2025年は維持できるか絶滅するか正念場の年になると感じている。
そういえば、香川県環境保健研究センターが所報としてリリースしている、「ニッポンバラタナゴ Rhodeus ocellatus kurumeusの遺伝子解析」に関する報告も2021年を最後に途絶え、2024年はなぜか「環境DNA分析を用いたカワバタモロコのモニタリング手法の検討」に切り替わっていた。すべての生息池で「ニッポンバラタナゴ Rhodeus ocellatus kurumeusの遺伝子解析」が、継続されることを期待したい。
ある研究者が「生き物に配慮のない生息地改変で次々と消えていくし、保全しようにも適切な場所が確保できない。遺伝子多様性に配慮し、同一水系で保全地を検討しているうちに絶滅してしまう。今振り返れば、とりあえず移殖しておけばよかった。淡水魚など普段目にとまらないし、人の興味をひきつけにくい、絶滅の加速は止められないからせめて生息が確認できる間に記録に残しておくのが今の仕事」と言っていた。
情報の非公開に阻まれて、香川のニッポンバラタナゴは他地域に比べてまだ安泰だと小生も1カ月前まで思っていたが、そんなことはない、絶滅への序曲が鳴り響いている。
参考文献
香川県 (2002) ニッポンバラタナゴ保護管理マニュアル 香川県環境局環境・土地政策課自然保護室,高松
香川県 (2004) 香川県レッドデータブック 香川県の希少野生生物, 416. 香川県環境森林部環境・水政策課, 高松
香川県 (2021) 香川県レッドデータブック 香川県の希少野生生物, 286. 香川県環境森林部みどり保全課, 高松
白井康子, 池田滋, 伊藤英夫, 横井聰 (2009) 希少淡水魚ニッポンバラタナゴ保護の取組み-タイリクバラタナゴ混入個体群の池干しと捕獲による防除の試み-. 水環境学会誌 32:661–664. https://doi.org/10.2965/jswe.32.661