アブラボテから考える遺伝子多様性

香川県に生息するアブラボテを紹介します。この写真に写ったアブラボテたちは棲む水系が違います。どこ川水系産か分かるでしょうか?

アブラボテ

アブラボテ

外部形態の違いでどこ産とズバリと言い当てることはかなり困難です。生息場所が違えど、種が同じなら同じように見えます。一方、淡水魚を考えるときに、地域個体群が重要、というのが共通の認識です。生息地によって、遺伝子レベルで相応に違いがあり、この遺伝子レベルの違いから「遺伝的多様性」、「地域個体群間の遺伝的分化」、「国内移入種による遺伝的撹乱」などに多くの知見を与えます。

地域固有の生物集団は、長い歴史の結果として作り上げられてきました。それが入り交ざってしまうと地域固有の生物集団が永久に失われてしまうこと、交雑がその地域集団の減少や絶滅につながる可能性が生じます。別亜種の例で考えると、ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴが有名です。交雑の結果、何世代か後にはそれぞれの遺伝的特徴が集団から消え去っていくことが知られています。長期的には、よその地域からきた淡水魚は、結局その地域の環境に適応できず、絶滅してしまうかもしれません。

とは言っても移植放流を、「絶対やってはいけないことなんですね?」と聞かれたら、返事に窮します。場合によっては積極的に行った方がよい移植放流もあり難しい問題です。本県にわずかに残るはニッポンバラタナゴは、一部のため池では、遺伝的多様性を失い、近親交配の悪影響が表れています。最近になって分断された集団の間にも、いくらか遺伝的特徴に差異が見つかる場合があります。しかし、それは長い時間をかけて分化したものではなく、もともと共通していた特徴の一部をそれぞれ別々に失ってしまった結果とも言われています。こんなときには、集団の本来の遺伝的交流を促進するような対策が必要になってきます。

絶滅を防ぐための移植放流は難しい問題で、本会も関係機関と連携、合意を図りながら最善の保全策を探っていきたいと考えています。

結論としては、同じ種で、見た目同じでも、差異があるということです。パッと見で遺伝子レベルの違いは分かりませんから、安易な放流は慎むべきだということです。

ましてや環境保全をテーマにしたコイの放流など言語道断です。コイの放流による環境破壊以外のなにものでもありません。国際自然保護連合では、コイを世界の侵略的外来種ワースト100のうちの1種に数えています。コイは、汚れた水にも対応する環境適応能力が高く、他の魚の卵や稚魚を大量に捕食してしまう危険性を持ち合わせ、底生生物や水生植物などを根こそぎ食べてしまいます。コイの放流は環境改悪を促進する、環境保全に白旗を上げる行為だと言っていいでしょう。

香川県では、タイリクバラタナゴの放流によるタイリクバラタナゴとニッポンバラタナゴの交雑による絶滅が問題になっています。

まずは、ペットショップなどで買ったタイリクバラタナゴの放流はお控え願います。