ため池の王女と貴公子-ニッポンバラタナゴ

ニッポンバラタナゴ

ニッポンバラタナゴは、大阪府、奈良県、香川県と九州中北部のみに分布する日本固有亜種です。 香川県では、山裾のため池といった自然性の高い止水域に生息します。

かつて瀬戸内平野では広く見られましたが、別亜種であるタイリクバラタナゴとの競合ならびに交雑、浚渫・コンクリート護岸への形状変更などの生息地の改変、ため池の埋め立てなどの生息地の消失、ブラックバス、ブルーギルの違法放流による捕食圧により、瀬戸内地方では、大阪府と香川県、岡山県の山麓部などのわずかなため池を除いて絶滅しました。

体が側扁し、体高は高く、輪郭は菱形に近く、口髭はありません。全長は最大で約5㎝近くになり、約1年で成熟します。側線は不完全で側線有孔鱗数は0~5、体側上に暗青色の縦帯が存在します。

産卵期には雄では体全体が赤褐色を帯び、腹部外縁と腹鰭は黒色になります。雌は白色の長い産卵管が伸長します。

近縁種であるタイリクバラタナゴとは側線有孔鱗数(タイリクバラタナゴでは2~7)、腹鰭前縁部の白色帯の有無によりある程度区別は可能ですが、ニッポンバラタナゴとの交雑が進んでおり、ぱっと見、ニッポンバラタナゴ?、タイリクバラタナゴ?と迷う時があります。

このニッポンバラタナゴ、3月を過ぎると産卵期にかかり、雄は体全体が赤褐色になり、婚姻色を帯びます。雌は白色の長い産卵管が伸長します。

繁殖は、メスは産卵管を貝の出水管に挿入して産卵し、ドブガイなど二枚貝の鰓の内側に卵を産みつけ、オスは入水管付近で放精します。精子は入水管から取り込まれ、貝の殻の中で受精が行われます。ドブガイを介した間接的な行為(失礼!)も、王女と貴公子に相応しい行動なのではないでしょうか。

性格も精細です。香川県の許可を得て、香川県立高松西高等学校理学部では飼養観察をしていました。餌などを取る行動はけっして俊敏ではなく、ちょっと性格が荒いアブラボテなどと同居させるとアブラボテばかりがすくすくと成長し、ニッポンバラタナゴはやせ細っていく傾向がありました。

また、ニッポンバラタナゴは、タイリクバラタナゴと容易に交雑して、ニッポンバラタナゴとしての特徴が失われ、雑種が誕生します。そうなると、見た目では分かりにくいですが、ニッポンバラタナゴ絶滅です。ペットショップでニッポンバラタナゴとして販売されている個体の中には、明らかにタイリクバラタナゴの特徴を持った個体を見かけます。これが、ペットショップで買ったニッポンバラタナゴを放してはいけない理由のひとつです。

さて、王女とは、王族の一員で国王や王に準ずる君主の娘のこと。貴公子とは、気品が高く、容貌や風采が優れている男子を指します。

このような特徴のニッポンバラタナゴ、ため池の王女、貴公子に相応しいかの判断はみなさまにお任せします。